「うちだけ出遅れているんじゃないか、と焦っています。取引先はもうAIを使っていると聞くので」
「ツールは契約しました。ただ、契約したまま誰も使っていなくて、何が変わったのか説明できません」
「AIで効率化できたのは事実なんですけど、それが売上につながっている実感がないんです」
こういうご相談を、この半年でよくいただくようになりました。
先に結論を書きます。2026年7月に公表された2つの公的調査を突き合わせると、「多くの企業が生成AIを使っている」ことと「組織としてAIを導入できている」ことは、まったく別の話だと分かります。そして導入した企業でも、効果の中身は9割以上が業務の効率化・迅速化で、売上や利益の向上を挙げた企業は3.9%にとどまっています。
つまり「入れたのに変わらない」は、あなたの会社だけで起きている失敗ではありません。今の日本企業の平均的な現在地です。
この記事で持ち帰れること
- 総務省の「86.4%」とIPAの「16.6%」が食い違って見える理由(設問が違います)
- AI導入の効果として、実際に何が起きて何が起きていないのかの内訳
- 白書が中小企業について名指ししている、分かれ目になる要素
- 最初の1業務を総務・バックオフィスから選ぶことに、データ上の裏づけがある理由
- 私たち自身がAIで業務を回した実測値と、そこで分かった限界
2026年7月、公的調査が「86.4%」と「16.6%」を同時に出した

2026年7月、企業のAI利用に関する調査結果が相次いで公表されました。ところが出てきた数字が、一見すると正反対に見えます。
ひとつは総務省の『令和8年版 情報通信白書』です。同白書によると、自社の何らかの業務で生成AIを利用している旨を回答した割合は、日本において86.4%でした。2024年度企業向け調査に比べて大幅に上昇し、今回調査した他の3か国(米国・ドイツ・中国)との差も縮まる結果になったとされています(図表Ⅰ-2-1-6)。
もうひとつは、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2026年7月16日に公表した『DX動向2026』のプレス発表です。こちらではAIの導入状況を従業員規模別に見ており、「1,001人以上」の企業で8割近くが導入している一方、101人以下の企業では16.6%という数字が出ています。
86.4%と16.6%。同じ月に出た公的調査で、これだけ開きがあります。
正直、この2つを並べて紹介している日本語の記事をほとんど見かけません。片方だけを引いて「もう9割が使っています」と書くか、あるいは「中小企業はまだ2割弱」と書くか、どちらかになっているように思います。ただ、どちらも間違ってはいないんです。
なぜ数字が食い違うのか。聞いている質問が違う
種明かしをすると、この2つは同じことを聞いていません。
総務省が尋ねているのは「自社の何らかの業務で生成AIを利用しているか」です。何らかの業務で一つ以上使っていれば、それで該当します。図表Ⅰ-2-1-6のタイトルも「生成AIを一つ以上の業務で利用している割合」です。
対してIPAが尋ねているのは「AIの導入状況」で、こちらは組織としてAIを導入しているかどうかを見ています。対象も生成AIに限りません。
さらに集計の母数も違います。総務省の86.4%は、活用方針に関する設問で「わからない」と回答した対象を除いたうえでの、日本全体の値です。IPAの16.6%は、従業員規模を101人以下で区切ったときの値になります。
ここは書き方に注意が必要なところで、IPAの16.6%は「従業員101人以下」という従業員規模の区分であって、法令上の中小企業の定義とは一致しません。「中小企業のAI導入率は16.6%」と要約されている記事を見かけますが、正確には従業員規模の話です。
数字の大小を比べる前に、何を聞かれた数字なのかを見る。地味ですが、ここを混ぜると判断を間違えます。
効果の内訳を開くと、9割が「効率化」で止まっている

では、実際に導入した企業では何が起きているのか。IPAの調査はここを細かく出しています。
まず効果の状況です。「期待以上の効果があった」「期待どおりの効果であった」の合計は31.8%。最も多いのは「一定の効果はあった」で50.6%でした。多くの企業で何らかの効果は得られている、という結果です。
問題はその中身です。効果の内容を見ると、次のようになっています。
| 効果の内容 | 割合 |
|---|---|
| 業務が効率化したり迅速化した | 91.6% |
| 企画提案等の品質や速さが向上した | 48.9% |
| 残業時間の削減につながった | 29.2% |
| 顧客満足度が向上した | 4.5% |
| 売上や利益が向上した | 3.9% |
| 対象となる顧客が拡大した | 2.7% |
IPAはこれについて、効果の中心は業務効率化・迅速化となっており、企業価値創出に関連する効果の回答割合は数%台にとどまる、としています。
利用用途の方も同じ傾向です。「文書・音声の要約・翻訳・校正」が82.5%で最も高く、次いで「文書・レポートの作成(社内・社外)」が80.5%、「情報検索・収集・分析・レポーティング」が77.0%。一方で「自社製品・サービスの高度化」は10.9%、「生産・物流・サービス提供の計画支援」は6.0%です。
IPA自身も総括で、国内企業におけるDXは普及しAI導入は広がっている一方、業務効率化の段階から新たな価値創出やビジネス変革へと発展させることが今後の重要な課題である、と述べています。報告書のタイトルが「広がるAI導入、DXは変われるか」となっているのも、おそらくそういう問題意識かなと思います。
なお、この調査は国内企業の経営層・情報システム部門・DX推進部門等を対象に、2026年4月17日から6月12日にかけて実施され、1,799社から回答を得たものです。
分かれ目は「組織的な取組」があるかどうか
「入れたのに変わらない」の理由として、白書がかなりはっきり書いている箇所があります。
総務省白書によると、生成AI活用による業務変革等に関して、全社横断的・各部署単位・個人業務単位のいずれかで組織的な活用に取り組んでいると回答した割合は、日本では65.6%でした。他方で「組織的な取組はない」と回答した割合は27.0%と約3割に上り、米国・ドイツ・中国に比べて顕著に高い結果となっています。
そして、ここが重要なのですが、企業規模別に見た場合、この「組織的な取組はない」という回答割合は中小企業で特に高くなっている傾向が見られたとされています(図表Ⅰ-2-1-3)。
活用方針そのものは前に進んでいます。「積極的に活用する方針である」と「活用する領域を限定して利用する方針である」の合計は日本で68.9%、前年度の49.7%から大きく上昇しました。ただし米国・ドイツ・中国と比べると、日本は引き続き低い水準にとどまっています(図表Ⅰ-2-1-1)。
方針は決めた。個人としては使っている。けれど組織としての取組がない。この状態が、数字の上でもはっきり出ているわけです。
では中小企業では何が効いているのか。白書は戦略や方針の状況について、日本の中小企業では「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」が最も高い回答割合となったとしたうえで、中小企業におけるAI活用については、トップダウンの関与がキーポイントとなっていることがうかがえると述べています(図表Ⅰ-2-1-4)。
現場に任せて自然発生的に広がるのを待つ形だと、27.0%の側に入りやすい。そういうことなのだと思います。
最初の1業務は、総務・バックオフィスが理にかなう
「じゃあどこから手を付けるのか」という話になります。ここも白書にヒントがあります。
業務類型ごとの生成AIの活用状況を見ると、日本では「議事録・メール作成補助」での活用を回答した割合が約7割と最も高く、次に「営業・販売」で約6割、「社内ヘルプデスク」で約5割と続きます。
そして効果の面でも、導入効果を実感すると回答した割合は「議事録・メール作成補助」が約7割となり、他の類型に比べて顕著に高い結果となっています(図表Ⅰ-2-1-7)。
つまり、いちばん使われている領域が、いちばん効果を実感されている領域でもある、ということです。総務やバックオフィスから始めるのは、無難だから消去法でそうなっているのではなく、データの上でも理にかなった選択だと言えます。
なお日本については、各業務類型で「未導入」や「わからない」と回答する割合が全体的に高い、という指摘もあわせて書かれています。
最初の1業務をどう選ぶかは、中小企業がAIを導入するなら、まず1業務からで具体的な決め方を書いています。逆にAIに任せない方がいい業務の切り分けはAIに任せてはいけない業務の4分類にまとめました。
CodeClimbの見解
ここからは、公的調査そのものではなく、私たちの解釈と実際にやってみた話です。
私たち自身も、完全に91.6%の側から入りました。CodeClimbは自社の業務をAIで回していますが、実測できている変化は次の4つです。
| 業務 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 見積書・請求書づくり | 1件15分 | 1分もかからず |
| 営業アプローチ文 | 朝2時間で15件 | 調査から文面までAIが行い、確認して送るだけで30分弱 |
| 日報・振り返り | 1〜1.5時間 | 音声で話すだけ、AIがまとめて30分 |
| システム不具合の調査 | 半日 | 10分程度 |
正直に書きますが、この4つはすべて「業務が効率化したり迅速化した」に分類される話です。売上が伸びた話ではありません。IPAの調査でいえば、私たちも3.9%の側ではなく91.6%の側にいます。
ではそこに意味がないのかというと、そうは思っていません。効率化は入口としては正しいと考えています。ただし、効率化のままで止めると、いつまでも3.9%の側には入らないというのが、この2つの調査を突き合わせて感じたことです。
効率化を越えられた例として、私たちが出せるものは今のところ1つだけです。あるkintone運用案件で、外部サービス(トヨクモのFormBridge・kViewer・DataCollect)に月9万円かかっていたものを、自社開発のシステムに置き換えて廃止し、年間約108万円を削減しました。これは作業時間の短縮ではなく、コスト構造そのものが変わった例です。
この違いは何かというと、「今ある作業を速くした」のか「その作業が必要な仕組みごと作り替えた」のかだと考えています。前者は道具を配れば起きますが、後者は誰かが業務の設計を決めないと起きません。白書が中小企業についてトップダウンの関与を挙げているのは、たぶんそういうことなのかなと思います。
もうひとつ、これは推測になりますが、86.4%という数字の中には「社員が個人的に使っている」状態がかなり含まれているのではないかと見ています。総務省の設問は自社の何らかの業務で使っているかを聞いているので、全社導入を意味しません。ここを「9割が全社導入している」と読むと、焦って不要な投資をすることになりかねません。
私たちはツールを売っている立場ではなく、実際に作る側にいます。だからこそ言えるのですが、入れるかどうかより、どの業務のどの部分を作り替えるかを先に決めた方が、結果的に安く済みます。実際のAIによる業務効率化の事例やこれまでの制作実績もあわせてご覧いただければと思います。
まとめ
2026年7月の2つの公的調査から読み取れることを整理します。
- 総務省白書では、自社の何らかの業務で生成AIを利用している割合は日本で86.4%
- IPA調査では、AI導入率は従業員1,001人以上で8割近く、従業員101人以下では16.6%
- この差は矛盾ではなく、「利用しているか」と「組織として導入しているか」という設問の違い
- 導入した企業でも効果の内容は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%、「売上や利益が向上した」は3.9%
- 「組織的な取組はない」は27.0%で、中小企業で特に高い傾向
- 白書は中小企業についてトップダウンの関与がキーポイントとなっていることがうかがえるとしている
- 業務類型では「議事録・メール作成補助」が利用率・効果実感ともに最上位(約7割)
「入れたのに変わらない」と感じているなら、それは失敗というより、多くの企業が今いる地点だと思います。次に考えるべきは新しいツールを足すことではなく、どの業務の仕組みを作り替えるかを決めることかなと思います。
ご相談について
CodeClimbでは、企業向けのAI導入・業務システム化を、実際に作る側の立場からお手伝いしています。「どこから手を付けるべきか分からない」という段階のご相談で構いません。
出典
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd121130.html | 総務省『令和8年版 情報通信白書』第1節1(3) 生成AIの業務利用状況 | 2026年7月
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd121120.html | 総務省『令和8年版 情報通信白書』第1節1(2) 組織的な取組状況 | 2026年7月
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd121110.html | 総務省『令和8年版 情報通信白書』第1節1(1) 生成AIの活用方針等 | 2026年7月
https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/rcu1hd0000016yh4-att/press20260716.pdf | 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公開」 | 2026年7月
https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2026.html | 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026」広がるAI導入、DXは変われるか | 参照 2026-09-04
https://www.soumu.go.jp/main_content/001082851.pdf | 総務省『令和8年版 情報通信白書(概要)』 | 2026年7月
