営業のアプローチをAIで効率化したい、というご相談をいただくとき、出てくる話はだいたいこの3つに集約されます。
「リストは手元にあるけど、1社ずつ調べて文面を書いていると午前中が全部消える」
「AIに書かせてみたら、当たり障りのない文章しか出てこなくて結局自分で書き直した」
「営業メールの自動化ツールを勧められたけど、テンプレを大量送信するのは自分の商売とは違う気がする」
結論から言うと、営業アプローチのAI活用でいちばん効くのは「送る」の自動化ではなく「調べる」の自動化だと思っています。文面を書く部分だけAIに投げても、たいてい薄い文章が出てきて書き直しになります。効いてくるのは、その手前で相手の情報をどこまで集めて渡せているか、という部分です。
私はCodeClimbとして中小企業向けに業務システムやAIの仕組みを作っています。営業支援ツールを売っている立場ではないので、正直、「ツールを入れれば解決します」とは書けません。うちも自分の営業は自分でやっていて、その工程をAI前提に組み直した結果、朝2時間かけて15件だったアプローチが、確認して送るだけの30分弱になりました。この記事では、その組み方と、あえて自動化しなかった線をそのまま出します。
なお、うちの4業務のビフォーアフターを数字で並べたものはAIで業務効率化した事例【2026】にまとめてあります。この記事は、そのうち営業アプローチの1件について「では実際どう組んだのか」を工程まで分解したものだと思ってください。
この記事で持ち帰れるのは、次の5つです。
- 営業のAI活用がいま実際にどのくらい進んでいるのか(公的な調査データ2件)
- 「調べる・書く・送る」の3工程のうち、どこをAIに渡すと効くのか
- AIに渡す情報の作り方(ここを飛ばすと当たり障りのない文章になる)
- 自動化してはいけない線と、その理由
- 営業支援ツールを買う前に確認しておいたほうがいいこと
営業でAIを使っている人は、まだ3割もいない

体感の話をする前に、外の数字を2つ置いておきます。
HubSpot Japanが2025年2月に公表した「日本の営業に関する意識・実態調査2025」(マクロミルに委託、売り手1,545名・買い手515名が対象)では、「実際に営業活動のために生成AIを活用したことがある」と答えた人は28.9%にとどまっています。同じ調査で20代に限ると活用率は46.3%なので、若い層から先に入っている状況かなと思います。ちなみにCRMの導入率も2024年度で37.2%でした。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000068.000037724.html
一方で、スマートキャンプ株式会社が営業でAIツールを使っている担当者389人に行った調査(2025年12月18日〜25日実施)では、66.9%が「成果への寄与を実感している」と答えています。営業の質についても59.9%が向上を感じたという結果でした。
出典:https://boxil.jp/mag/a10614/
この2つを並べると、使っている人の中では手応えが出ているのに、そもそも使っている人が3割いないという状態です。まだ「やった人が得をする」時期だと思います。ただし後で書くように、雑に入れると成果が出ないまま「AIは使えない」で終わるので、どこに入れるかの設計のほうが大事です。
効いたのは「書く」ではなく「調べる」の自動化だった
営業アプローチの工程は、分解すると「調べる・書く・送る」の3つです。うちが朝2時間で15件やっていた頃、時間の大半を食っていたのは調べるでした。相手のサイトを開いて、何をやっている会社なのかを読んで、どこに困っていそうかを見当つけて、ようやく書き始める。1社10分としても15社で2時間半かかる計算です。
最初にやったのは「書く」をAIに任せることでした。これは正直、あまり効きませんでした。相手の情報を渡さずに書かせると、どの会社にも送れる文章しか出てきません。どの会社にも送れる文章は、結局どの会社にも刺さらないので、自分で書き直すことになります。時間はほとんど減りませんでした。
変わったのは、順番を逆にしてからです。先に「調べる」をAIにやらせて、その結果を材料にして自分が判断する形に組み替えました。具体的には、企業のサイトや公開情報から次の項目を拾ってきてもらう形にしています。
- 何をやっている会社か(事業の中身。業種名だけでは足りない)
- 直近で何を出しているか(新サービス、採用、お知らせなど動きのあるもの)
- 使っていそうな業務システムやツールの痕跡
- 問い合わせ導線がどうなっているか
- こちらが役に立てそうな接点の候補
この5項目が揃っていると、文面のほうは割とすぐ出ます。むしろ材料が揃った後は、AIが書こうが自分が書こうがそこまで差がありません。詰まっていたのは文章力ではなく材料集めだったということかなと思います。
結果として、今は調査から文面の用意までがAI側で終わっていて、人がやるのは出てきたものを読んで、これで送っていいかを判断するところだけです。1件あたり2分弱、15件で30分かかりません。
ここで正直に書いておくと、質が落ちたかというと落ちていません。むしろ調べる時間を惜しんで雑に送っていた頃より上がっています。時間が半分以下になって質が上がるのは出来すぎに聞こえますが、理由は単純で、以前は時間がないことを理由に調査を省いていたからです。省いていた工程が埋まっただけかなと思います。
AIに渡す情報を作らないと、当たり障りのない文章しか出てこない

「AIに書かせたけど微妙だった」という話をよく聞きます。中身を伺うと、だいたい渡している情報が足りていないケースです。会社名と業種だけ渡して「営業メールを書いて」と言えば、会社名と業種から書ける文章しか出てきません。当然といえば当然です。
渡す情報を設計するときに、うちで意識しているのは次の3つです。
- 相手側の事実:上に挙げた5項目。ここが一次情報になります
- 自分側の引き出し:過去にどんな案件をやったか、何なら確実にできるか。ここが薄いと、相手の事実と結びつける先がありません
- 送らない条件:この条件に当てはまったら候補から外す、という線。件数を追いかけると必ずここが緩むので、先に決めておきます
2つ目の「自分側の引き出し」は見落とされがちですが、結構効きます。相手の情報だけ集めても、こちらが何を提供できるかが言語化されていないと、文面が「ぜひ一度お話を」で終わってしまいます。うちの場合は自社の実績と、対応できる業務の範囲を整理したものをAI側に持たせています。
それと、いきなり全部を組もうとしないほうがいいと思います。1業務ずつ試して、効いたら次に進むほうが結局早いです。この進め方については中小企業がAIを導入するときの最初の1業務の選び方で詳しく書いています。
送信は自動化していません。ここは線を引いたままにしています
営業メールの自動化というと、リストに一斉配信して反応した相手だけ追う、という形が想像されると思います。うちはやっていません。文面を用意するところまでがAIで、送信ボタンは人が押します。
理由は、誤送信が取り返しのつかない種類のミスだからです。宛先を間違えた、別の会社向けの文面が混ざった、事実と違うことが書いてあった。どれも後から取り消せません。時間を30分節約するために、その事故のリスクを取る意味はないかなと思っています。
人が必ず目で見ている項目は、この4つです。
- 固有名詞:会社名、サービス名、担当者名。AIが似た名前を混ぜることがあります
- 相手について書いた事実:本当にサイトに書いてあったことか。ここの間違いは一番印象が悪いです
- 数字と価格:こちらが出す条件。ここは絶対にAIに決めさせません
- 約束していること:文面上で何を確約したことになるか
この線引きは営業に限った話ではなくて、AIに任せる業務と任せない業務を分ける基準そのものです。判断が要るもの、間違えたときに取り返しがつかないものは人が持つ。この考え方はAIに任せてはいけない業務の4分類のほうに整理してあります。
ついでに書いておくと、大量送信の方向に振らなかったのはリスクの話だけではありません。うちの商売だと、100社に送って1件返ってくるより、15社にちゃんと調べて送って2件返ってくるほうが、その後の商談が成立しやすいからです。ここは扱っている商材によって答えが変わるところなので、一律に「大量送信はダメ」とは思っていません。
ツールを買う前に確認しておいたほうがいいこと
営業支援系のAIツールはたくさん出ていて、正直よくできているものも多いです。ただ、作る側の立場から見ると、入れる前に確認しておいたほうがいい点がいくつかあります。
- 「調べる」がついているか:文面生成だけのツールだと、この記事で書いた一番効く部分が埋まりません。結局こちらが材料を用意することになります
- 自社の情報を持たせられるか:過去実績や対応範囲を読ませられないと、文面が一般論になります
- 出力を人が止められるか:確認せずに送る設計になっていないか
- 抜けられるか:蓄積したリストや履歴を後から取り出せるか。ここは意外と詰まります
- 月額が工数削減に見合うか:月に何時間浮くのかを先に見積もっておくと判断しやすいです
それと、これは自分に不利なことも含めて書きますが、営業アプローチのAI化は、既存のツールで足りることも普通にあります。今あるチャット型のAIに調査項目の型を決めて渡すだけでも、かなりのところまで行きます。うちも最初はそこから始めました。仕組みとして組むかどうかは、件数が増えて手作業が追いつかなくなってからでいいかなと思います。
まとめ
営業アプローチのAI活用について、この記事で書いたことをまとめます。
- 効くのは「書く」ではなく「調べる」の自動化。詰まっているのは文章力ではなく材料集めであることが多い
- 相手側の事実5項目と、自分側の引き出しを揃えてからAIに渡す。ここを飛ばすと当たり障りのない文章になる
- うちは朝2時間で15件だったのが、確認して送るだけの30分弱になった。質は落ちていない
- 送信は自動化しない。固有名詞・事実・数字・約束の4点は人が必ず見る
- ツールを買う前に「調べるがついているか」「自社情報を持たせられるか」を確認する。既存のAIで足りることも多い
営業でAIを使っている人はまだ28.9%です。使っている人の66.9%は手応えを感じている。この差が埋まるまでの間は、先にやった側が有利な時期が続くのかなと思っています。
自社の営業工程をAI前提で組み直したい方へ
CodeClimbでは、中小企業・個人事業主の方の業務をAI前提で組み直すお手伝いをしています。営業に限らず、どの業務から手をつけるべきかの切り分けからご相談いただけます。うち自身が同じことを自分の会社でやっているので、うまくいかなかったパターンも含めてお話しできるかなと思います。
サービスの内容はAI導入支援のページに、ご相談はお問い合わせフォームからお願いします。いきなり依頼でなくて構いません。まず現状を伺うところからで大丈夫です。
